平成28年度新型インフルエンザの診療と対策に関する研修に参加して

平成28年11月6日東京で開催されました上記研修会に参加しました

  1. 新型インフルエンザワクチンの現状と課題について

2009年パンデミックウイルスは、  1977年からのソ連型のH1N1と共通抗原。日本では、入院率、死亡率ともに世界的に低かった。高齢者65才以上では、患者が少なく残存免疫の可能性が考えられた。 国産ワクチン1回接種と2回接種であまり抗体価の上昇に変化なしパンデミックワクチンは13才以上では1回接種で抗体価上昇あり。過去の季節性A/H1N1ウイルスの感染により免疫記憶あり。

インフルエンザワクチンの効果発現

不活化ワクチンでは粘膜免疫はできない。プライミングされているとワクチンは1回でよい

新型インフルエンザ等対策ガイドライン

パンデミックワクチン備蓄。平成18年度から、鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルス株のプレパンデミックワクチンを、毎年約1000万人分製造し、平成24年度から54万人分を備蓄。現在、チンハイ株(約1000万人分)、ベトナム株・インドネシア株(約1000万人分)、アンフィ株(約1000万人分)。 全国民分のワクチン製造に鶏卵培養法では1年半から2年かかるため、細胞培養法により約半年で製造できるように生産体制の整備を実施

  1. 診断と治療:重症(肺炎合併)例を中心とした新型インフルエンザ診療

合併症のハイリスク群

65才以上、慢性呼吸器疾患、心血管疾患、慢性肝・腎・血液・代謝疾患、神経筋疾患、免疫抑制状態、長期療養施設入所者、著しい肥満、アスピリン長期服用、担癌患者、妊婦

タミフルは48時間以内の下気道合併症を44%減少。タミルフルは入院リスクを63%減少

インフルエンザ治療の原則

発症後48時間以内に開始すると治療効果が最大となる。ハイリスク群では可能な限り抗ウイルス治療を開始することが推奨。肺炎を合併した新型インフルエンザには、原発性インフルエンザウイルス肺炎(急速に進行し呼吸不全となることが多い)、ウイルス細菌混合性肺炎( 肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌感染が多い)。 治療は『成人の新型インフルエンザ治療ガイドライン』に基づいて実施。ノイラミニダーゼ阻害薬の使用アルゴリズムにもとづき薬剤選択

  1. 新型インフルエンザ対策について

鳥インフルエンザ(H5N1)はエジプト、インドネシアで発生が多い、鳥インフルエンザ(H7N9)は持続的にヒト−ヒト感染は認められない。 新型インフルエンザ等対策特別措置法を策定し対策している。対策の基本的な考え方は、水際対策、早期封じ込め、感染拡大の抑制、流行規模の平坦化、ワクチンの早期開発生産、医療への負担を下げる。抗インフルエンザ薬の備蓄は国民の45%相当量を目標としている。備蓄目標:5650万人分  流通備蓄:1000万人分。人口25%が罹患し全員が受診 3200万人分、重篤の場合倍量・倍期間投与 +750万人分、予防投与 300万人分、季節性インフルエンザ同時流行 1270万人分

現在の被害想定

全人口の最大25%が流行期間にピークをつくり順次罹患。医療機関受診者 約1300万〜2500万人。入院患者 約53万人〜200万人。死亡者  約17万人〜64万人。備蓄 タミフル 約3000万人分、リレンザとイナビル 約530万人分、ラピアクタ  95万人分

  1. 抗インフルエンザウイルス薬の薬剤耐性化とその対策について

ノイラミニダーゼ阻害薬耐性ウイルスは増殖スピードが遅くなり、感染伝播効率が悪くなり、ヒト−ヒト感染して流行が拡大する可能性は少ない。2008年ノルウェーからタミフル耐性ウイルスが世界中に流行。 ノイラミニダーゼ遺伝子275番がヒスチジンからチロシンに変異。増殖スピードが遅くなることを代償する遺伝子変異を獲得した。ウイルスの消失には薬剤と同時に体内の免疫応答が重要。免疫不全患者では、5ヶ月間ウイルスを持続排泄した症例あり。8才では治癒にあたる5-7日でも40〜60%がウイルスを排出している。ウイルス排泄が長引くと、体内でのウイルス増殖が持続し変異ウイルスが一定頻度で出現し、薬剤耐性変異を持ったウイルスが増殖しやすくなる。4才の幼児の治療前は、薬剤感受性100%、耐性0%であるが、治療後5日では8%耐性出現し、7日目では75%耐性が出現する。タミフルよりもリレンザの方が耐性ができにくい、局所での薬剤濃度の違いによる 吸入薬の方が局所濃度高い。耐性ウイルスであっても、推定される血中濃度から効果が期待できる。タミフルとラピアクタ、リレンザとイナビルはノイラミニダーゼの結合部位が近いため交差耐性ができやすい